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インタビュー

九州大学国際法務室  岡田昌治 教授

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九州大学国際法務室  岡田昌治 教授
ソーシャルビジネスとは
日本ではソーシャルビジネスといえば、NPOやNGO、チャリティー、ボランティアなどを指しますが、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏(バングラデシュ)が提唱しているソーシャルビジネスはまったく違います。一言で言えば、社会問題解決型ビジネスです。ビジネスという手法で社会問題を解決するビジネスモデルを作り上げ、それを持続して行うのです。貧困や食糧、温暖化などのエネルギー問題など、世界レベル、国レベル、町レベルのさまざまな社会問題があり、日本の国レベルでは自殺者のレートの高さ、独居老人などがあり、その社会問題を解決していくことを目的にしたビジネスです。日本では昔からある売り手と買い手、世間に利益を与える「三方良し」の商いです。ユヌス氏のソーシャルビジネスは、この考え方に近いものです。
ソーシャルビジネスがどのように再犯防止に役立つのでしょうか
再犯防止のためには出所者が自立することが大事です。人生においての社会基盤を築くため、仕事を得ることが重要になってきます。私がアドバイザー顧問を務めている産業廃棄物処理を手がける「ヒューマンハーバー」(福岡市)では出所者を雇用することで、自立のチャンスを与えています。
「三方良し」の一つは自立できる出所者ですが、雇用する企業側にはどんなメリットが
企業にとって、出所者を雇用しているという社会貢献のCSR的な効果があります。しかも会社のパンフレットやホームページにユヌス氏の写真を使用もでき、広告効果もあります。ビジネスとしては、ヒューマンハーバーは厳しい面接をした上で、有能でやる気がある者だけを採用し、産廃業で本当に戦力になる人だけを雇っています。そこが福祉と違うところです。福祉で再犯率を下げようとしますと、対象は全出所者や全受刑者になってしまいます。でもソーシャルビジネスは有能な人だけ、なぜならばそれはビジネスだからです。ビジネスにとっては、有能な人材は大切な戦力となります。しかも刑務所は人材の宝庫、その中からいかに有能な人材を発掘し、やる気を出させて生かしていきます。
もう一つの「三方良し」は
もちろん国などの行政です。刑務所に1人入りますと、年間350万円の費用がかかりますが、出所してからも罪を犯さず働いて給料をもらい、税金を払うと350万円のに費用が必要ないため1人当たりの400万円(税金分を入れて)のプラスになります。国にとって非常に大きな貢献です。
再犯防止にソーシャルビジネスはマッチしていると
再犯の問題は世界中の問題でもあります。ヒューマンハーバーのようなビジネスモデルがあれば、世界中で同様の手法が通用することになります。例えば、ヒューマンハーバーの場合、産廃業というシンプルなビジネスでもあるので、どんどんと有能なやる気がある出所者を雇用していくことが可能です。現在、ほかにも出所者を雇用している企業がありますが、会社として戦力にしていかなければならないと思います。会社の戦力、あくまでもビジネスとして取り組まなければなりません。出所者が十分な戦力となることで、出所者という偏見もなくなると思います。
どう拡大させていけばいいでしょうか
やはり産廃業者が雇用して、出所者の自立をうながすのがいいのではないでしょうか。産廃業は雇用する企業だけでなく、いずれにしても廃棄する物を処分しますので、協力する企業としても非常に参加しやすいのです。ヒューマンハーバーでは協力企業が排出する廃棄物のうちの10パーセント買い取ることになっています。しかも他の産廃業者よりも高く買うことができます。なぜかといいますと、産廃処理が丁寧なため高値で取り引きできるわけです。産廃を持って行ってもらう企業も儲かり、もちろん産廃企業も儲かります。さらに産廃を排出する企業もパンフレットにユヌス氏の写真を使え、CSRになります。追加予算も必要なく、廃棄先をヒューマンハーバーにするだけです。これがソーシャルビジネスとして成り立つことができた要因だと思います。今後も廃棄物を10パーセントだけ処分させてくださいと要望すれば、もっともっと拡大するでしょう。
いいことずくめですね
ですが、ダメージを被るのが既存の産廃業者です。それでもソーシャルビジネスで出所者の雇用をしていると説明すれば、大概は納得しますし、既存の業者もソーシャルビジネスに転換することもできます。一つだけ普通のビジネスと違うのは出資者が配当金を受け取らず、出資額以上は受け取ることができないことにあります。そのためには配当金なしの株主を探さなければなりません。だが、ヒューマンハーバーが募ったとき、寄付でもない、配当金目当てでもない投資だから出資するという人が出てきいました。そこがおもしろいと思います。
商人の心意気ですか
日本人がもともとしていた商いの三方良しは、ユヌス氏が世界中で講演しているソーシャルビジネスそのものなのです。弱肉強食型の資本主義はたかだが100年、150年です。日本人には合っていませんよ。現在、世界でもかなり破綻し、世界中が21世紀の進路を探している状態です。いまこそソーシャルビジネスに関心が高まっていますが、もともとは日本人がしていた商売なのです。二宮尊徳の言葉が残っています。「道徳なき経済は犯罪である。経済なき道徳は寝言である」。われわれの先祖がそう言っているのです。だからこそ、いま日本人が世界に先駆け、ソーシャルビジネスを広めていくべきだと思います。
【九州大学国際法務室  岡田昌治 教授】
昭和28年、福岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、NTT勤務を経て、平成15年より、九州大学教員、2011年より現職。ユヌス&椎木ソーシャル・ビジネス研究センターエグゼクティブディレクターとして、ソーシャルビジネスの普及に努めている。

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