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INTERVIEW

インタビュー

龍谷大学大学院  浜井浩一 教授

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龍谷大学大学院  浜井浩一 教授
再犯防止に何が重要と思われますか
軽犯罪を犯した人も凶悪犯罪を犯した人も同じ人間なので立ち直るプロセスは同じですが、テレビの影響だと思いますが、一般の人の中には凶悪犯罪者は自分たちと同じ人間ではないと思っていることが多く、この点が再犯防止にとって最も難しい壁になっていると思います。例えば、高齢者が社会的に孤立し、生活困窮から万引きを繰り返す場合や認知症の人を刑務所に送り込んでも仕方なく、犯罪をしないための支援が必要だという話は理解してもらえますが、それを凶悪犯罪者まで拡げるとなかなか理解されません。再犯防止で一番重要なことは社会の中に居場所と出番を作ることです。だから、地域の理解は不可欠です。基本的には社会に関心を持ってもらい、犯罪者の実像を理解してもらうことが重要です。私は「遠山の金さん手法」と名付けて批判していますが、現在の裁判は、罪の重さに応じた判決を言い渡して終わりです。遠山の金さん同様に、現在の日本の司法は「罰を与えただけでこれにて一件落着」と終わっています。裁判官や検察官もそれ以降は関心がありません。テレビドラマも逮捕か判決で終ってしまいます。だから一般の人たちも判決で事件はすべて終わって、その後のことに関心が向かないのです。罰そのものに再犯を防ぐ効果はほとんどありません。法曹といわれる専門家を含めて、刑務所に入り、その後、再び社会に復帰することまでは思い至らないというのが再犯防止の一番の障壁となっています。
まずは社会が犯罪者を理解しなければ
一般の人たちは、犯罪者は懲らしめなければ反省しないと思っています。でも懲らしめるだけで反省するような人はいません。「こんなひどいことをした鬼畜だ」、「お前なんか人間扱いされる資格などない」と非難されて、「ああ自分が悪かった」と反省するような人間はいません。そもそも幸せな人は犯罪をしません。人が罪を犯すときは、借金や失業、そして孤立など何らかの理由で自尊感情が激しく低下しているときです。そんなときに人から非難されれば、人間は反感を持つか、心がひしゃげてしまうかのどちらかです。でも一般の人は、犯罪者を寛大に処遇することは彼らをつけ上がらせてしまうと考えがちです。しかし、人は苦境に立ったときにこそ、誰か助けてくれる人がいれば感謝するものです。私の経験でも受刑者が自分の犯した罪と向き合って反省を口にし始めるのは、誰かから自分という存在が認められたときか、めったにありませんが被害者や家族から許されたと感じたときです。死刑や無期懲役にならない限り、罪を犯した人でも社会に戻ってきます。だから、再犯防止を考えるのであれば、帰って来たときにどういう人間として帰ってきてほしいのか、そのために何が必要かということを一番に考えなければなりません。そのためには、受刑者の実像、彼らも同じ人間であるということを一般の人たちに知ってもらい、自分ならどのように扱われるとまじめに頑張ろうと思えるかを考えてもらうことがスタートポイントではないでしょうか。
自分たちとなんら変わるところはないと
そのことを理解してもらえれば、自分たちが悪いことをして失敗した場合にどうすれば反省できるのかがわかるはずです。私自身がそうでした。私が現在ここで話しているようなことを考えられるようになったのは、刑務所や少年院の現場で仕事をし、犯罪者と直接話をするようになってからです。私が一番驚いたのは、犯した罪の重さと犯人の実像のギャップです。テレビで見るような冷血非道な殺人犯を刑務所の中で見たことはありませ。殺人などの重い罪を犯した人ほど未熟なだけの普通の人です。また、反省することと、立ち直って再犯をせずに生活することは別物です。裁判所で泣きながら罪を悔いて反省する人がいますが、その時は本当に心のそこから反省したとしても、罪を犯した原因の住所不定・無職や依存症などの問題が解決しなければ、三日後には警察に捕まって戻ってきます。反省しても、犯罪をせずに生きていくことができる選択肢がなければ再犯は防げません。気持ちだけでは立ち直れないのです。精神論でオリンピックで勝てないのと同じです。生活が再建できなければ、再犯につながってしまうのです。そのためには「居場所」と「出番」が必要だと思っています。この二つがそろって初めて普通に生活できるようになり、罪も犯さなくなります。悪いことをしなくても生きていける選択肢を作って上げることが再犯防止には絶対に欠かせません。
基本的には住まいと仕事ですか
そういうことですね。でも高齢者の場合では就労が難しい場合もあります。生活保護をもらってアパートを借りて上げれば、事足りるわけではありません。「出番」とは「自分はここにいてもいいんだ」「社会に受け入れられているんだ」という感覚が必要なのです。それが自尊感情を高めます。どこかで求められている、役に立っているということが思うかどうかです。自分が生きていることの価値、自分が価値ある存在であることが重要になります。その点では、やはり仕事が一番わかりやすいです。自分で稼いで税金を払うことは社会に貢献することによって身分が証明されます。社会から認められていることの証しです。高齢者の立直りは、そこが難しいところです。
「居場所」と「出番」はどうすればいいでしょうか
だれでも刑務所を出るときには戻って来ない、真面目に生きようと思っているのですが、出所後に家族に電話しても友人に電話してもよそよそしい態度を取られてしまいます。仕事が見つかっても、元受刑者だとわかりますと、よそよそしくなってしまいます。「やっぱり社会は俺を受け入れてくれない」と思いますと、がんばろうと思う気持ちが萎えてしまい、自尊感情が低下し、自暴自棄になります。受刑者などが再犯する時は必ず「社会から必要とされていない」「求められてもいない」「居場所がない」と思い、自尊感情が低下したときなのです。
社会復帰するには何らかの支援がないと厳しい
社会復帰してがんばるためには気持ちだけではだめです。立ち直るための手段を提供しなければなりません。居場所と出番が亡くなったら、頑張ろうという気持ちも切れて、また刑務所に帰ってくることになります。つなぎ止める何かが必要になるのです。だから家族が居る人は強いですね。家族のためにがんばろうと、社会に未練が出るわけです。家族と仕事が一番いいですが、そう簡単に与えることはできません。人によって違いますが、高齢者の場合ペットを飼うことでもいいわけですよ。ペットには偏見はありません。優しくしてくれる人にはなつきます。人とは関係性が築けませんけど、犬や猫とは関係性を築くことができます。ただ、働ける人には就労がやはり一番です。日本は働かざる者食うべからずの国ですから、働いてさえいれば、社会に認められている実感を持つことができるわけです。
その就労もなかなか進まないようです
そうですね。だからこそ職親プロジェクトのようなプログラムは非常に大切です。更生保護の協力雇用主制度も登録する会社は増えていますが、雇用実績は必ずしも多くありません。

民間の職親プロジェクトができてきますと、こっちがだめでもこっちではいいと重層的になります。どんなにマッチングしてみても、就労は働いてみなければわかりません。少年院で介護士の資格を取り、高齢者施設で働いても、人間関係の問題や向き不向きもあります。何度か失敗する中で本当の居場所と出番が見つかります。だから、就労支援の後、途中で辞めたときにその次があるかが大切です。そのプロセスを理解した支援システムを作っていかないといけません。就労継続支援が重要です。日本の支援システムは一回だけで、一度就労すれば、一件落着となります。伴走支援をしていかないと途中で失敗してしまいます。経験から言いますと、非行少年の場合三回から五回ほど転職してようやく落ち着くことが多いですね。転職の機会を作り、継続的に支援を続け、ようやく居場所が見つかる。そのことも一般の人たちにも知ってほしいですね。最初の話に戻りますが、罪を犯した人も同じ人間として社会が受け入れない限り、更生は難しいことを理解してもらうことが一番大切なことです。
【龍谷大学大学院  浜井浩一 教授】
鳥取県で育つ。早稲田大学教育学部卒業後、法務省入省。刑務所や保護観察所などで勤務、国連にも出向し、法務総合研究所で犯罪白書の執筆にも携わった。

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