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PROJECT

INTERVIEW
インタビュー
弁護士 大川哲次
その他

矯正施設へ出向き、釈放前の指導をボランティアで行ったりする篤志面接委員を27年務め、全国篤志面接委員連盟の常任理事も務める。
「家族との関係をどう築くべきか、出所後の仕事はどうしたらいいかといった相談も多いけれど、この前はある少年院で『先生、弁護士になるにはどうしたらいいですか』なんて相談もありましたよ」
更生保護の活動に足を踏み入れたのは、親しかった同期の検事からの誘いがきっかけ。その人物は、修習生のころから犯罪者の更生の仕事を志望しており、希望通り矯正局の検事になった。大川さんが弁護士になって10年ほど経過したころ、その人物から、「矯正には外部の協力が必要。篤志面接委員になってくれないか」と誘われた。
幼いころから、母親に「人より恵まれた環境にいたら、恵まれない人たちのために何かやりなさい」と教えられてきた大川さん。だから、「犯罪者も恵まれない境遇の人が多く、こういう人たちを引き上げなきゃと思った。誘いはいいきっかけでした」と話す。
矯正施設で相談を受ける場合、相談者の前歴は一切見ないという。「見たらどうしてもそういう目で見てしまう。見たら思う指導ができない。白紙で臨むことが必要です」
篤志面接委員は、社会的に地位ある人が多く、自分の経験をまず話してしまいがち。だが大川さんのやり方は、自分が話すのではなく、相手にしゃべらせて、問題解決の糸口を探ってアドバイスすることだ。
「とことん聞いてやることで、『よく聞いてくれた。これからはなんでも相談しよう』と思ってもらうことが大切。信頼関係を持ってもらうんです」
そのため、4年も毎月話をして相手に心を開かせることもあったという。
「罪を犯すとき、一人で実行するというよりも、先輩や悪友に言われて受け身でこなす場合が多いから、自分が上に行ったら、部下に命令するようになってしまう。一番欠けているのは自主性。自分で考える姿勢を身につけてもらうことが必要です」
長年、罪を犯した人たちと接してきた大川さんによれば、犯罪の背景には、「孤独」があるという。
「孤独で社会から評価されないから、自分が社会的に無価値と思うようになり、罪を犯す。だから、相談できる友を得ることが大切。就労もまじめないい友を得るための手段なんですよ。働いてお金を稼ぐことは必要だけれど、職場のいい上司や仲間に出会い、仕事を離れても何でも相談できるような人に出会うことに価値がある。そして、汗水たらして働いて、自分が少しでも社会に役に立てているなあと思えるようになることで、自分の存在価値を見出す。孤独さをなくすこと、ちょっとでも社会の役に立てていると思えるようになること、この二つがそろったら事件は半分以下に減りますよ」と力説する。そして、出所者がそういった状態になっていくための手助けとして、職親プロジェクトの役割に期待している。
「職親プロジェクトは大変立派なことです。大企業の中には、更生のための事業へ寄付はするけど、自分の会社で出所者に仕事はしてもらわないでいいというところが多いですからね」
単なる就労支援とは異なる、職親プロジェクトの「親」としての側面にも注目している。
「親だったら子供を更生させようと必死に思いますよね。『職親』はそういった、親として、家族として出所者を更生させようという気持ちのフォロー、立ち直りのための身内の役割を経営者が果たそうとしています。これは、人手がないから出所者でも取ろうかなどと思っているような経営者では、到底務まらないことです」
大川さんに言わせれば、職親プロジェクトは更生保護法の趣旨にも合致するものだという。
「更生保護法の中に、『国民は、更生保護について、地位と能力に応じた寄与をするように努めなければならない』という内容の条文があるんです。だから、更生は国民の責務なんですよ」
しかし、このような条文の存在が一般にほとんど知られておらず、また条文のような取り組みがなされていない現状を強く憂慮している。
「更生させることが自分の生きがいだと思ってくれるような経営者がいてくれれば。出所者が多少の問題を起こしても、気長に更生に付き合ってくれるような経営者が増えてほしい」
多くの国民が能力に応じて更生保護に寄与しているとは言い難い状況なっているのは何故か。
「日本の更生保護は、国と保護司などごく一部の外部協力者しかやっていない。日本人は、出所者に近づいてはいけない、自分の会社に入れるなんてとんでもないという意識が強い。他方、ヨーロッパでは出所者を何人雇ったかで国王が勲章を与えるほど、更生に理解がある国もあります」
日本人に出所者に対する意識の背景の一因に、矯正施設の閉鎖性を指摘する。
「刑務所の中で運動会をやったって、一般の人と一緒にやるなんてことはないし、地域住民が刑務所を訪問するというケースもほとんどない。刑務所側が、プライバシーなどを理由に閉鎖的になっています。一般の人は、受刑者は極悪非道だと思っているが、それはごく一部でしかない。この世に犯罪者として生まれる人はいないわけで、親から虐待を受けたとか、環境によって犯罪を起こしてしまった気の毒な人も少なくないんです。そういうことを知ってもらうためにも、刑務所側はもっとオープンであっていい」
大川さんは、職親プロジェクトが当然のことと思われるような社会を願っている。
「本来は、職親は美談ではないです。更生保護法に書かれている責務を果たしているだけですから。でも、現実はそうなっていない。だから更生保護法を作った国はもっと更生保護について一般の人に知ってもらう努力をするべきですし、職親プロジェクトが成功事例を増やしていく必要がある。そうすれば、更生保護に関心を持って、私たちにも何かできないかと思う人が増えるはずです。再犯問題は極めて根が深く、簡単に解決できませんが、地道な積み重ねで、国民全体が職親になるような気持ちを持てるような状態を徐々に作っていくことが必要ではないでしょうか」